上記の症状はADHDなどの発達障害の症状と類似します。最近よく勉強された方は、上記の数種類の症状はADHDの症状とお考えになられる方も多いと思います。その通りだと存じます。発達障害では衝動性などが思考を妨害するために上記の症状が生じます。
具合が悪いのはうつ病の影響
ADHDは幼少児から変わらない、良くなったり悪くなったりしない。にも関わらず、なぜか最近調子が悪い、ミスが増えた、やる気が出ない、体がだるい、仕事や勉強が進まないなどの症状が現れた場合に、ADHDのみを考えるのでは無理があります。その場合にはうつ病などの併発を考えるのが良いかと思います。ADHDによる二次的なうつ病と言われるものです。
併発した状態の場合には、医療機関や臨床心理士が関わることが多くなります。うつ病になると、自分の性格はなにか、自分の欠点はここだ、その欠点を克服するのだという気持ちが強くなり、自分探しの長い旅に出ることになります。元気な時にはこの旅には出ません。すなわちうつ病になると、発達障害や人格障害といった自分の特徴に注目するようになるのです。とても重度の発達障害の場合には幼少期から診断がなされこれ自体が問題とされますが、重度の発達障害でない場合には本人や周りが気が付かなくてもうつ病になってから喚起される概念と思います。ですから、病院に受診され、ご自身が発達障害と言われる方では、あまり発達障害の重症度が高くなく、それほどの影響がないにもかかわらず、最近調子が悪いとおっしゃるのですが、その時には実はうつ病が隠れていることが多いのです。もっと言えば、軽症のADHDという概念はうつ病があってこそ表に出て強調される概念です。うつ病発症前には、本人はそれほど御自身のADHDであるということをそれまでの元気な時には気にしていなかったのです。が、社会生活や日常生活に支障が出るようになると、うつ病になると、御自身が発達障害なのではないかと気にするようになります。あるいは周囲の人が気にするようになります。しかし、この状態はうつ病と言うことが出来ます。
最近では、人格障害という概念はあまり耳にすることが無くなり、発達障害とよく聞くようになりました。この頃には、うつ病あるいはうつ状態の原因として人格障害を見つけ出さなければなりませんでした。元々人格障害があり、その影響でうつ状態になるという考え方です。今では、人格障害という概念は、すたれた概念になってしまいましたが、20年前には主流の概念でした。その当時では人格障害にアプローチすることでうつ状態を治療しようと考えられていました。今ではそのブームが終わって普通にうつ病を治療しようという考えに変化しています。発達障害の場合には、うつ病を併発しているにもかかわらず、見逃されて、発達障害に焦点を当てた話し合いがなされる、発達障害の治療をすると言うことがあります。メンタルの専門家に相談される場合には具合が悪いことが多いのですが、発達障害の診断を受けてもうつ病の診断が見落とされることがありますので要注意です。
うつ病の原因は、人格障害や発達障害なのでしょうか?
人格障害や発達障害があると生きにくく、周囲との摩擦が起きやすく、トラブルを引き起こすので、ストレスがかかりやすく、うつ病になるとも考えられます。が、うつ病の原因はストレスが起きた時に、考えすぎてしまう、頑張りすぎてしまう、自分で決めた価値観に執着してしまうために、疲労困憊してしまうことが原因なのではないでしょうか。悩みすぎてアリ地獄にはまってしまうようなものです。考えが堂々巡りして疲れ果ててしまった状態です。
うつ病では、不安やあせりが生じてくる
調子が悪くなると、どうにか改善しなければならないと、焦りが生じ、もっと頑張らないといけないと思うようになります。そのため、焦りから集中できなくなったり、物事が手につかなくなります。集中力が低下し、なにをやっても進まない、今まで出来ていたことが出来ないといったことが現れてきます。この時には、不安や焦りを治療することがまず必要になります。そうすることで、安心して焦らずに考え行動することが可能になり、落ち着いて物事に取り組めるようになります。元気を出す抗うつ薬を利用するよりも、落ち着くことが出来るようになる抗うつ薬を利用することが良い結果をもたらす状態です。リラックスする時間が増えてくると、考えすぎが軽減し、ゆっくりと休むことが出来るようになりますので、疲労困憊状態から抜け出すことが出来ます。落ち着く薬を服用することで疲れがとれ元気を取り戻すことが出来るのです。メンタルの専門家に相談される場合にはその時期には具合が悪いことが多いのですが、発達障害の診断を受けてもうつ病の診断が見落とされることがありますので要注意です。
メンタルの専門家
うつ病よりも人格障害や発達障害を重視しようと言う考えは、専門家の中にあり、それはその人個人個人のことをよく知ろう、理解しようという熱い思いから発する優しさであると思います。しかし、人格障害がアメリカの診断基準ではⅡ軸(サブメイン)診断であるように、発達障害もⅡ軸診断であると私個人的には考えるようになっており、あくまでもうつ病がメインの診断であるケースの方が圧倒的に多いように思います。もちろん重度の発達障害の方においては、発達障害がメインの診断になります。また、ずっと以前からうつ病はメインの診断であり続けており、うつ病の治療がまずは重要であると考えていただきたいと思います。もちろんその後、ADHDの導入することもありますが、焦りや不安を解消した後で内服する方が効き目はずいぶんと高いのです。また、うつ病の急性期において、カウンセリングは困難を極めます。思考制止で頭の回転が遅くなっており上手に考えることが出来ない状態、あるいは焦ってしまい次々と思考が移り変わってしまう状態では、内省することや修正することが難しいのです。あるいはカウンセラーの助言を受け入れることが本人に難しかったり疑いを持ってしまったりと、堂々巡りの状態が続くこともあり得ます。話し合うにはある程度元気な状態であること、価値観が広いことが必要かもしれません。そのような困難な状況の中で心理士の方は頑張っているのです。心理士の方に敬意を表します。
心理テスト、IQ検査
うつ病の急性期に、心理テストやIQ検査を行うと、元気がない状態でテストを受けることになり、不安焦燥や思考制止により、結果はIQがおのずと低く出ることが予想されます。
そのため、うつ病が改善したのちに、もう一度検査を受けなければ、正確な数値は現れない可能性があります。うつ病の最中にIQを測定して、自分はIQが低いなどと決めつけない方が良いのです。
ADHD(貪欲、行動的、衝動的、時に攻撃的、自分を正当化、有利な点を強調、思考は浅く広い、時に周囲の気持ちは関係なく自己中心的に猛進する、派手に見える)。ASD(あまり欲がないようにみえ行動的ではない、意思表示が顕著ではない、権力にかみつくことがある、自分のせいだと思いがち、欠点を強調、一つのことを深く考える、過敏、周囲の思惑に影響され動けなくなる、地味に見える)などの思考や行動特性が心理テストによってどの程度判定出来るのかを考えなくてはなりません。よって、診断は心理テストの結果のみに頼るだけでなく、行動や思考過程の観察によってなされる必要があります。
発達障害と診断することでの悪影響
治療面を考えると、うつ病の期間中に個人の人格の障害や発達障害などの指摘をしても、本人が考え込んで疲弊してしまい、うつ病がより複雑化する恐れや、自己肯定感を持てなくなる結果につながることもあり、うつ病の治りが遅くなってしまいます。そのため、発達障害と診断されていても、うつ病が併発する場合には、優先順位としてうつ病の治療を第一に考えるようにしましょう。思考制止(見落としがちですが、頭の回転が遅くなっているうつ病の症状です)がある場合に、自分の性格のことや発達障害のことは上手には考えられませんし、修正のしようがありません。考えてもネガティブとなり傷つくことになりますので、発達障害が重要な概念だと感じても、うつ病が治って元気になってから発達障害のことを考えるようにしてください。診断もうつ病の診断を優先するように心がけるようにしましょう。特にお子さんが発達障害と診断され、親が子供をバカにする、欠点を指摘するというという行為が行われることがありますが、子供の自尊心を傷つけることに他なりません。他人の欠点を探し出すことより、他人の良い所に注目するようにしたいものです。
お薬
いずれにしてもADHDの方の焦りには抗うつ薬を、ASDの方のこだわりにも抗うつ薬が有効で、うつ病の治療には抗うつ薬を利用するということで、最初は抗うつ薬による治療が必要な場合が実は多いと思います。治療に訪れる最初の段階では、抗うつ薬が有用と思います。その後、発達障害のお薬も時期を見て導入することも必要です。
治療
日本橋茅場町こころのクリニックでは、うつ病を見逃さないように注意し、お困りの症状が出来るだけ早く改善するように治療していきます。皆様のご活躍を応援していきます。